大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和51年(家)1691号 審判

申立人 森田健一郎(仮名)

相手方 森田浩(仮名)

主文

被相続人が所有していた森家の系譜(過去帳一冊)祭具(森清次、同良雄、同ひさの各位牌一柱宛)の承継者及び被相続人の遺骨の取得者をいずれも相手方と定める。

理由

1  申立の要旨

申立人は被相続人の長男である。被相続人の弟である森良雄は昭和八年一月二三日死亡し、被相続人の父森清次は昭和一四年三月一一日死亡し、同母「ひさ」も昭和三一年一〇月二五日死亡し、被相続人が、これら森家の祭祀を主宰していたが、昭和四九年九月一一日死亡した。申立人はその九歳のとき森良雄の喪主を勤め、また申立人一五歳の時死亡した森清次の薫育と感化を受けた。被相続人の妹二人はいずれも申立人が森家の祭祀主宰者の地位を承継することを切望している。相手方は現在森家の過去帳と上記森家三名の位牌、被相続人の遺骨を保持している。被相続人は祭祀主宰者を指定せず、また慣習もないので、上記森家の系譜、祭具、及び被相続人の遺骨を承継すべき者の指定を求める。

2  本件及び当庁昭和四三年(家)第一二三七号、同昭和五一年(家)第一六一号第一六二号各事件記録並に当事者双方に対する審問の結果によれば、次の事実が認められる。

申立人と相手方とは兄弟で、その父は森田佐太郎で母は被相続人である。申立人らの父佐太郎(明治二九年二月二〇日生)と被相続人とは大正一二年一〇月五日大阪市○区長に対し婚姻の届出をした。そして両者の間に、大正一二年一一月二六日に長男として申立人が、昭和五年三月一五日に二男として相手方が各出生した。元来佐太郎の先祖の宗派は浄土真宗西本願寺派であつたが、被相続人の先祖のそれは真言宗(高野山)であつた。被相続人の父である森清次(明治九年四月八日生)が昭和一四年三月一一日死亡して間もなく、その妻即ち被相続人の母である「ひさ」(明治一〇年八月一日生)は佐太郎とその妻である被相続人並びに申立人と相手方との四名が居住していた大阪市○区○○町××番地の佐太郎方に同居するようになつた。その時「ひさ」は森家の過去帳一冊と清次の位牌一柱及び清次と「ひさ」との間の長男良雄(大正四年五月七日生で昭和八年一月二三日死亡)の位牌一柱を持参し、これらは佐太郎が購入していた佐太郎方にある仏壇に納められた。「ひさ」は昭和三一年一〇月二五日上記佐太郎方で死亡し、佐太郎によつて、「ひさ」の位牌一柱が作られて上記仏壇に納められた。これより先、申立人は昭和三〇年一〇月二五日下村節子(昭和四年二月九日生)と婚姻すると同時に、上記佐太郎方を出て申立人夫婦は大阪市○○○区○○町×丁目×番地で同棲を始め、昭和三三年四月一五日以降、申立人の肩書住所に移つた。相手方も昭和三〇年一一月二八日山本勝子(昭和六年二月一五日生)と結婚(婚姻届は昭和三一年一月九日提出)したが、相手方夫婦は上記大阪市○区○○町××番地で佐太郎夫婦や上記「ひさ」と同居した。昭和三六年一一月頃佐太郎夫婦と相手方夫婦とは、相手方の肩書住所に移転して同居を続けた。佐太郎は昭和四〇年頃急に手足がしびれだしたのでその病気療養のため和歌山県海南市の○○○リハビリテーシヨンに入院したが昭和四二年一一月二一日同所で死亡し、被相続人も昭和四九年九月一一日一ヵ月間程全身不随のため相手方やその家族の看病を受けた後相手方の肩書住所で死亡した。被相続人の葬式は申立人が喪主となつて相手方肩書住所で執行された。相手方は被相続人の死亡直後その位牌を作り上記仏壇に納めた、被相続人の遺骨は未だ埋葬されず、そのまま上記仏壇に供えられているが、相手方は近く、広島県福山市にある被相続人の墓(佐太郎と共に法名が刻まれている)に納めようと思つている。同墓は昭和四五年頃相手方によつて樹てられたものである。「ひさ」存命中は、「ひさ」によつて、被相続人の知り合いの真言宗の僧侶を招いて、上記仏壇に森清次や森良雄の位牌を供えてこれらの者の法要が営まれ、「ひさ」死亡後は被相続人が上記僧侶を招いて、上記仏壇に清次、良雄、「ひさ」の各位牌を供えてこれらの者の法要を営み、被相続人死亡後は、相手方が、上記僧侶を招いて、上記仏壇に、被相続人の位牌を合わせ供えて、清次らや被相続人の法要を営んで来たが今後も、これを継続する意思を有している。

申立人は、新しく仏壇を求め、これに森家の過去帳と、清次、良雄、ひさの各位牌を納めて法要を営みたいと希望している。そして被相続人の遺骨の引渡を受けて、これを福山市に在る佐太郎の墓と高野山とに別けて納めようと思つている。

被相続人が森家の祖先の祭祀を主宰すべき者を指定した事実はなく、また、これに関する慣習も明かでない。

被相続人の妹である川崎三津子(明治三三年三月六日生)及び真田京子(明治四〇年九月二八日生)は、必ずしも申立人が森家の祭祀主宰者となつて、その過去帳や位牌の所有権を承継し、また被相続人の遺骨の取得者となることに賛意を表していない。

申立人は昭和三〇年佐太郎夫妻と別去以来殆ど佐太郎や被相続人とは往き来がなく、佐太郎死亡後は全くといつてよい位被相続人と住き来がなかつた。

3  当裁判所の判断

上記事実によれば、森家の過去帳一冊と森清次、森良雄、森ひさの各位牌一柱宛は、いずれも被相続人の所有に属していたものと推定することができる。

本件は、遺骨の承継者についても申立てられているので先ず、この点について検討するに、一般に被相続人の遺骨は、被相続人が生前、支配していた身体が、その死亡によつて遺体となり、火葬されたことによつて遺骨に代つたものであつて、その所有権は、祭祀財産に準じて、被相続人の祭祀を主宰すべきものが取得するものと解する。

申立人は被相続人の長男であつて、被相続人の葬儀の際は、その喪主を勤めたとはいえ、昭和三〇年以来被相続人とは別居し、その間に殆ど往き来がないのに引きかえ、相手方は被相続人の二男であつてその出生以来被相続人が死亡するまで同居し、その死亡の際は一か月間程看病し、その死亡後は被相続人の法要は勿論、被相続人の祖先である清次、良雄、「ひさ」の法要も執行しているもので、相手方は事実上、被相続人及びその祖先である森家の祭祀を主宰していたものということができ、その他申立人の主張する森家の系譜である過去帳、祭具である清次、良雄、「ひさ」の各位牌及び被相続人の遺骨は、いずれも相手方がその住所で保管しているものであること、相手方において今後も被相続人及びその祖先である森家の祭祀を主宰する意思と能力を有していること、その他諸般の事情を考慮するときは、被相続人及びその祖先である森家の祭祀を主宰すべきものを相手方とし、被相続人が所有していた森家の過去帳一冊と清次良雄、「ひさ」の各位牌一柱宛の承継者は相手方と定め、被相続人の遺骨についても相手方をして埋葬等の処分をさせるのが相当であるからその取得者を相手方と定めるを相当とする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 常安政夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例